導入事例のご紹介<ハンディターミナル>
2010年12月8日掲載
集団健診を効率的に行うためには、多数の検査データを迅速かつ確実に入力できるシステムが必要だ。そのデータの入口として岩手県予防医学協会は、業務用PDAを採用した。現場では各受診者に持たせたICカードを読み取って健診項目を表示し、採血した採血管のバーコード情報などを登録することで、事前準備の手間を軽減し取り違えなどを防止しているという。
岩手県全域を対象に、各種の健康診断サービスを提供している予防医学専門の健診機関が、岩手県予防医学協会である。職場や地域、学校などの集団健診から人間ドック、特定健診など、健康診断を総合的に手掛けている、全国的にも数少ない財団法人だ。
岩手県予防医学協会の設立は、1970年に「岩手県民の健康と福祉に寄与する」という基本理念を掲げ、岩手県から財団法人の認可を受けた。設立当初は、農村婦人の貧血検査や学童の寄生虫検査などを実施。翌71年には、検診車による巡回健診をスタートさせた。
北海道を除く都府県の中で最大の面積を持つ岩手県は、主要産業の農業の他に誘致企業も広く点在しており、学童健診を含め検診車による巡回健診が主な事業となった。
一方、1980年には、JA岩手厚生連が所有する農村管理センターに移転して、“一日人間ドック”を開始。1993年には、金ヶ崎町に県南センターを開設している。
現在では、事業所を対象とした産業保健分野、地域住民を対象とした地域保健分野、児童生徒を対象とした学校保健分野、人間ドックや健康支援、そして環境測定など、年間約120万件の検査健診を実施している。
ヒューマンエラーなく結果を早く出すため健診システムを刷新
岩手県予防医学協会 常務理事・事務局長の十和田紳一氏
県内全域を対象に、健診を総合的に手掛ける同協会では、その受診者の人数も相当なものだ。近年では、本所や県南センターで実施する人間ドックだけでも年間1万8000人が受診しているという。巡回健診では、県内全域で1日あたり約30班が出動しており、1班あたり100~150人が受診するという。また、学校の貧血検査では、1日に数百から1000人もの検査を一度に実施しなければならない。当然、大量の検査データを効率的に処理するシステムが求められる。そのために同協会では、1986年からコンピュータシステムを導入してきた。
「これまで25年間使ってきて、操作には慣れているのですが、血液や尿などのサンプル容器や問診票をナンバリングするといった事前準備が必要で、事後にも手入力が多かったことが課題でした。ヒューマンエラーの原因となる手作業を減らしたい、それから年間のコストも抑えたい、また結果をより早く報告できるようにしたい、といった理由から、システムを作り直すことにしたのです」と、岩手県予防医学協会 常務理事・事務局長の十和田紳一氏は話す。
こうして同協会では、2年半ほど前から健診システムの刷新プロジェクトをスタートした。まず準備委員会を立ち上げて情報を収集、全体の構成などを検討した上で健診システム委員会を設置。その上で、各部門から委員を出して新たな健診システムの構築に取り掛かったという。健診申込みを受け付け、各受診者の検査内容を設定するところから、実際の健診データを取り入れて受診者にひも付け、それらを処理してレポートとして出力するところまで、同協会の業務全体に関わる大規模なシステムだけに、各部門の参加が欠かせないというわけだ。
健診現場や健診後のチェック業務を効率化するためDT-5300を採用
岩手県予防医学協会 健診部 部長
健診システム委員会 委員長の朴田敦志氏
新たな健診システムのうち、健診現場の作業に直接関わる部分は、通常の病院などでいうオーダリングシステムに相当する内容となっている。受診者ごとの検査項目を医師や看護師、技師などに提示し、そのデータを取り込んだり、採血した採血管などのサンプルと受診者情報のひも付けを行ったりする機能を持つものだ。これらの作業が効率化されれば、現場での業務負担を軽減することができ、またデータの取り込みや、ひも付けが確実に行われているという担保があれば、事後のチェックを軽減できるため、結果票の作成業務など後段の作業負担を軽くできる。
この健診現場での情報の取り込みに採用されたのが、カシオの業務用PDA「CASSIOPEIA DT-5300(以下、DT-5300)」だ。健診システム委員会の委員長を務める、健診部 部長の朴田敦志氏は、その選定理由をこう話している。
「以前はナンバリングによる一連番号で採血管と受診者をひも付けしていました。しかし、一昨年より始まった特定検診・特定保健指導の階層化や依頼を受ける検査項目の多様化など、画一的な集団検診から個人の条件に合わせた検査が求められるようになりました。そこで、受診者個人の正確な情報を出し入れ出来るPDAとICカードの導入を考えたのです。他にもメーカーがある中でカシオを選んだのは、カシオの企業理念(新しいものに取り組んでいる姿勢)と今回の新健診システム構想が一致したこと、また健診データ収集システムのベンダーからの勧め(操作性・見易さ)などが理由です」
アークテック 健診グループ
マネジャーの太田将人氏
同協会が今回採用した健診データ収集システム“じゅんかいくん”は、パートナーのアークテックが開発した、DT-5300を使ったシステムである。“じゅんかいくん”から取得したデータは、日本事務器の総合健康管理システム「CARNAS」に転送され、結果判定や報告書の作成が行われる。なおアークテックでは、以前から巡回健診における健診データ収集用端末としてカシオのPDAを推奨しているとのこと。
「巡回健診業務を1台でこなせるのは、DT-5300しかないと考えています。画面の見やすさや持ちやすさなどはもちろん、バスで現場を巡回して健診するという業務を考えると、バッテリの持ちも重要です。また、受診者データをICカードで管理し、サンプルはバーコード、検査装置からのデータはBluetooth経由で転送していますので、その全てに高いレスポンスで対応できなければいけないからです」と、アークテック 健診グループ マネジャーの太田将人氏は説明する。
アークテック
システムエンジニアの樋口信也氏
また開発に際しアークテックのシステムエンジニア樋口信也氏は、「岩手県予防医学協会では、健診システム委員会がシステム導入の要件を取りまとめていたので、“やりたいこと・やるべきこと”が明確に我々に伝わってきました。部門横断的なIT導入を進める上で、大変効果的な進め方だったと感じています」と話す。 では次に、DT-5300の健診での具体的な使い方を見てみよう。なお、以前所属していた健康推進部から健診システム委員会に参加して副委員長を務めた同協会 総務部 部長の櫻井則彰氏によると、「ユーザーは、看護係が約150人。DT-5300は現在、予備を含めて約130台。まだ足りていません」とのことで、現状では血圧測定と採血の担当者が主に使っているという。そこで、この2つのパターンを紹介する。
サンプルのバーコード情報や検査データとのひも付けも健診現場で
岩手県予防医学協会 総務部
部長の櫻井則彰氏
健診時には受診者ごとにICカードが用意されており、まずそれをDT-5300にかざして読み取ることで、システムが検査準備状態となる。受診者ごとに必要な検査項目が異なる血液検査では、その情報が画面に表示されるようになっている。ちなみに採血管のキャップは検査項目に応じて色分けされており、これが画面上の検査項目の表示色と対応しているため、一目で把握できるのがポイントだ。
さらに、採血管には1本ずつ固有のバーコードシールが貼られており、採血の際には、このバーコードをDT-5300で読み取って、現場で受診者の情報とひも付けるようになっている。以前は、ナンバリングした採血管を使っていたが、「採血忘れやOCRの誤読などの問題がありました」(朴田氏)という。
血液検査でのDT-5300利用イメージ
岩手県予防医学協会
健康推進課の近谷真由美氏
実際に巡回健診でDT-5300を使う看護師の近谷氏は、「現場での作業はバーコード読み取りの分だけ増えたものの、ミスは減りました。データを間違えず検査できるという確実性は、安心感に繋がります。ただ、何もないと採血管が転がってしまうので、適当な台に置いたりするなど採血管の置き方を人それぞれ工夫しているところです」と話す。
一方、血圧計のデータ出力ポートにはシリアル―Bluetooth変換アダプタが取り付けられており、測定結果を自動的にDT-5300へ転送するようになっている。血圧が正常な範囲を超えるようであれば画面上にも示すようになっており、その場で受診者にも分かる仕組みだ。
岩手県予防医学協会
健康推進課の及川里実氏
同じく看護師の及川氏は、「DT-5300を使ったデータ収集には、最初は戸惑いもありましたが、使用するうちに慣れてきました。開発時には、血圧の判定基準をめぐって何度もアークテックと打ち合わせを重ねることは大変でしたが、今はそのおかげで効率の良い業務を行えるようになりました」と話す。
こうして収集されたデータは、システム上で健診者データと確実にひも付けられているため、後の作業では突き合わせてチェックする必要がなくなる。同協会の新健診システムはまだ全体が完成していないものの、「少なくとも臨床検査に関しては、かなりのチェックを減らせるようになりました」(朴田氏)とのことだ。
血圧測定でのDT-5300利用イメージ
クリーンなデータを入力し、チェック工数の削減を図る
同協会の健診システムは、基幹となる健康管理システム「CARNAS」などは完成して実際の運用に入っているものの、まだ一部の周辺システムが完成していないという。そのせいか、十和田氏は、「投資対効果には、改善の余地があります」と評価している。
「もともとヒューマンエラーを減らしたいというのが、新システム開発での最大の目的でした。そして、コストというよりはデータのチェックなどに要していたマンパワーを減らすことが重要なのです。今のところは、全体が完成しておらず、チェックする部分が増えているのが実態です」(十和田氏)
しかし、システム全体が完成すれば、全体を通じて一貫性のあるデータが使えるようになり、こうしたチェックは大きく減らせると見込んでいる。そのため、健診システム委員会ではシステム全体の完成に向けて追い込みを続けているところだ。また同時に、健診データを取り込むDT-5300の増設を図っていくという。
「少なくとも採血では、採血管キャップの色とPDAで表示される採血管種の色を同じくすることで、取り間違いや取り忘れがなくなりました。いずれは身長、体重など数字でデータが取れる項目は全て“じゅんかいくん”から取り込みたいと考えています。システムの作り込みとテストまでは済んでいるものの、まだ台数不足というのが現状です。最終的には、1班あたり7~8台のDT-5300を使い、取り込めるデータをすべてクリーンにしていきたいですね」(朴田氏)
健診システムのうち、まだ完成していないのが健診前の情報の部分だ。受診者ごとに検査項目を設定するといった機能が、まだ完全ではないという。同協会では、この部分も来年の4月までには完成させ、一貫したデータの流れを作り上げたいとしている。
「最初からクリーンなデータが入ってくれば、後の作業でもチェックのための人手を減らせ、コストも削減できます。われわれはその部分を、ITに期待しています」(十和田氏)
【導入製品・ソリューション】 ハンディターミナル DT-5300